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秋田地方裁判所 昭和37年(タ)3号 判決 1963年10月31日

判   決

本籍

朝鮮全羅南道麗水郡華陽面華東里一、三八〇番地

住居

男鹿市船川港仁井山字滝沢六九番地

原告

呉田金吉

昭和一三年一月二九日生

本籍

朝鮮全羅南道麗水郡華陽面華東里一、三八〇番地

住居

不明(最後の住居 秋田県南秋田郡船川港町金川字姫ケ沢一六六番地の三二)

被告

呉田敬順

生年月日不詳

本籍

朝鮮全羅南道麗水郡華陽面華東里一、三八〇番地

住居

男鹿市船川港下金川無番地

被告

呉田スエ

明治三三年一〇月三〇日生

右当事者間の親子関係不存在確認請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告呉田敬順が昭和一七年九月二二日原告を子としてなした認知は無効であることを確認する。

原告と被告呉田スエとの間に親子関係が存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告は主文と同旨の判決を求め、請求の原因として

原告は昭和一三年一月二九日被告呉田スエの長男伊藤賢蔵方において、同人の内縁の妻三浦あ子の子として出生した。ところであ子は賢蔵と内縁関係に入る以前既に原告を懐妊していたのであつて、このため出産後間もなく賢蔵と離別することとなり、原告を賢蔵方に置いたまま同人方を立去つてしまつた。そこで被告スエは原告を自分の子としてその出生届をし、次いで昭和一七年九月二二日被告スエと内縁関係にあつた被告呉田敬順が原告を認知し、さらにその後被告敬順と被告スエは婚姻したので、原告は戸籍上被告敬順と被告スエとの間の子として登載されている。しかしながら前述のように原告は三浦あ子の子であつて被告らの子ではないから、被告敬順のした右認知は無効であり、原告と被告スエとの間には親子関係が存在しない。よつて右認知の無効と原告と被告スエとの間の親子関係の不存在の各確認を求める。

と述べ、立証として(省略)の各証言を援用した。

被告呉田スエは請求棄却の判決を求め、請求原因事実はすべて認めると述べた。

被告呉田敬順は公示送達による適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しない。

当裁判所は職権で原告及び被告呉田スエ各本人の尋問をした。

理由

一  原告の提出した戸籍謄本と外国人登録済証明書の各記載によれば原告及び被告らはいずれも朝鮮の国籍を有することが認められる。そこで外国人間の親子関係に関する事件につき日本の裁判所が裁判権を有するかどうかを考えると、親子関係に関する事件につき日本の裁判所の裁判権が及ぶ範囲は原則としては当該親子関係の当事者の国籍いかんにより決すべきであり、少くとも当該親子関係の当事者の一方が日本の国籍を有する場合にはこれに対し日本の裁判所の裁判権が及ぶと解すべきであるが、さらに当事者双方がいずれも日本の国籍を有しない場合であつても、当事者が日本に住所を有する場合即ち当事者双方が日本に住所を有するときは勿論その一方のみが日本に住所を有するにすぎない場合においても、当該親子関係は我国の公益と密接な関係を有するのであるから、これに対し日本の裁判所の裁判権が及ぶと解すべきである。そして被告敬順は終戦後間もなく朝鮮に渡つたままその所在が不明であるけれども、原告及び被告スエが日本に住所を有することは、原告及び被告スエ各本人尋問の結果によりこれを認め得るから、本件については日本の裁判所が裁判権を行使することができるというべきである。

二  次に準拠法について考えると、法例第一八条第二項によれば認知の効力は父又は母の本国法によるのであるが、この場合の本国法とは認知がなされた当時の本国法を指すと解すべきところ、被告敬順が原告を認知したのは後述のように朝鮮が日本から独立する以前である昭和一七年九月二二日であるから認知当時被告敬順は日本人であり、従つて右認知の効力は日本の法律によることとなる。又親子関係不存在の確認は親子たる法律関係が存在しないという事実の確認にすぎないからこれについては準拠法の問題を生ずる余地がない。

三  そこで原告の請求の当否について考えると、証人(省略)の各証言並びに原告及び被告呉田スエ各本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、昭和一三年一月二九日被告呉田スエ方においてその長男伊藤賢蔵の内縁の妻であつた三浦あ子が原告を出産したこと、右三浦あ子は右賢蔵と内縁関係に入る以前千葉県の奉公先で吉田某と同棲して原告を懐妊したのであるが、その後右吉田某が行方不明となつたので郷里に帰り、妊娠中右賢蔵に嫁いだこと、しかるに原告の出生後あ子は賢蔵と離別することとなり、原告の処置をあ子の叔父三浦小一にまかせて賢蔵方を立去つたところ、原告は被告スエの父留吉により被告スエの子として届けられたこと、その後昭和一七年九月二二日被告スエと内縁関係にあつた被告敬順が原告を認知し、次いで、同年九月二三日被告敬順と被告スエが婚姻したことが認められる。従つて原告は戸籍上は被告敬順と被告スエとの間の子として登載されているけれども、実際は吉田某と三浦あ子との間の子であるから原告と被告らとの間には親子関係が存在せず、被告敬順がした認知は無効である。

そうすると原告の被告敬順に対する認知無効確認及び被告スエに対する親子関係不存在確認の各請求はいずれも理由がある。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

秋田地方裁判所民事部

裁判官 橘   勝 治

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